1996年7月1日月曜日

グローバル化「問題」の克服に向けて

世界経済のグローバル化は多くの恩恵をもたらすと同時に、様々な問題もわれわれに突きつけている。これはすぐれて今日的問題であり、これをリヨン・サミットの主要テーマに設定したフランスのシラク大統領の見識はさすがであった。もとより議論して簡単に結論のでる問題ではなく、今回のサミットでは問題の存在の確認にとどまった。しかしこの問題は確実に今後の世界の中長期的な課題となっていくように思う。

ものには全て両面がある。グローバル化は大きな成長のチャンスである。しかしそれが引き起こす世界規模の競争激化が、勝者と敗者を作りだし、国際的、国内的に、いわゆる二極化現象を引き起こしているのである。

アメリカでは富裕層の実質所得が一貫して増大するなかで、貧困層では実質所得が逆に低下を続けるという二極分化が進んでいる。

ヨーロッパでは国内勤労者の生活水準を守るべく社会福祉制度を整備してきたが、それが逆にヨーロッパの失業率を極端に高めてしまった。

日本では悪名高き閉鎖的で不透明な経済システムが、内外価格差を温存させ、産業構造の調整を先のばしにしてきたが、痛みが本格的に表面化するのはもう時間の問題であろう。日本の産業競争力の強さの秘密は、ムラ的な社会的一体感にあったわけで、もしグローバル化が社会の二極分化をもたらせば、日本の産業競争力を、その根本的なところから崩してしまうことにもなりかねない。

アジアにおいても例外ではない。急速に進むグローバル化と経済発展が、伝統的な社会秩序そのものを崩壊させるのではないかとの心配が高まってきている。

さらに経済発展を続ける新興工業国と開発から完全に取り残されてしまった最貧国との間の格差という国際間二極分化の問題も生じている。世界中に、将来に対する漠然とした不安が広がってきているのだ。
一部の先進諸国には、発展途上国と先進諸国の間で労働条件などを平準化して(例えば児童労働の禁止など)、途上国の野放図な輸出に歯止めをかけ、先進国での調整の痛みをやわらげようとする考え方がある。

それに対しては、地域間の経済的、制度的「格差」こそが貿易活動と海外投資活動の原動力であり、グローバル化のデメリットはグローバル化のメリットを追究する過程で、いわば拡大均衡のなかで吸収していくべきであるとする考え方もある。

ひとつ言えることは、グローバル化のメリットとデメリットの両側面を認識し、バランスシートで考えなければならないと言うことだろう。その上でデメリットをいかに極小化するか、具体的に個別問題を検討することが重要になっている。

このようなグローバル化のメリット・デメリットの両面を企業レベルで考えるとどうであろうか。国家とは異なり、企業は地理的な制約を受けない。世界展開を実現している企業では従業員の国籍もきわめて多様である。企業は本質的にコスモポリタンであり、企業にとってはグローバル化はメリット以外のなにものでもないように見える。

グローバル化で企業のビジネスの舞台が大きく拡大し、情報ハイテク化で飛躍的な意志決定のスピードアップがもたらされ、チャンスは大きく膨らんでいる。その一方で、グローバル化されたビジネスは、カントリーリスクをはじめとする、かつてないほどに多様で巨大なリスクを包含するようになっていることも忘れてはならないだろう。チャンスとリスクのバランスシートで考えるリスクマネジメントが大切な時代になっている。

(橋本 尚幸) 
 

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